脳と自由意志

私たちは、本当に、自分たちが考えているような自由意志で何かを決定しているのだろうか。ここでの自由意志とは、行動する内容をあらかじめ、行動の前に自由に決めることを言う。

ここでは、いわゆる理性を介した「自由意志」が、実は意思決定の前にあるのではなく、意志決定の理由付けとして時間的に後から、意志決定の後に成立するものだという話をしたい。

 

それは、フラッシュバックを経験する時に毎回実感することだ。「何でそう感じるの?こう感じればいいじゃない」というご丁寧な忠告は、フラッシュバックに対して全く効果を持たない。なぜなら、そんなことはすでに分かっていて、気の持ちようという時の気の在り方など、とうにシミュレーション済みだからだ。何でこう感じられなかったんだろう、そういつも思う。そして、自分が感じたことを自分で認めることができなくなる。感情は常にその存在の正当性を自明のものとして持てるわけではなく、特に私の場合、自分に自信がなく、感情の正当性を自分以外の外部に求めがちなのである。自分の感じ方が、私自身の合理的な推論にそぐわない。だから、自分の気持ちに蓋をする。こう感じたような気がしたけど、それはきっと気のせいで、本当は違って感じたはずだと。そして私はますます自分を信じられなくなる。

フラッシュバックの構造は単純で、ただ単に以前の強烈な印象が当時の音・匂い・皮膚に感じる温度を伴って突如として現れ、その当時の感情に飲み込まれるというものだ。怖かったり不安だったりする当時の感情は自分でコントロールすることができない。時にそれに伴って涙も出てくる。呼吸が苦しくなって、目がチカチカして、心拍数が上がる。そのような体の反応も明らかにある。私はそういう時、今まさに感じている不安を記述するのではなく、客観的事象で人が聞いて納得するであろう体の反応を記述することが多い。そうしたら、せめてそこだけでも信じてもらえるのではないかと思うからだ。

 

1983年、リベット博士は衝撃的な実験結果を公表した。心が指を動かそうという意図を意識するよりも前に、無意識のスイッチが入り、脳内の活動が始まっている、つまり指を動かすために必要なニューロンが発火しているというものだ。人が意識下でなにか行動を意図する時、それは行為の始まりではなくて、その前にすでに脳の活動が始まっているというのだ。すなわち、本人が無自覚なままで、脳は活動を開始しているのである。

 

脳は空間を歪ませるというのはよく言われることだ。錯視がそう。

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それだけではない。脳は時間のつじつまも合わせる。私は、今、指を動かそうと意図している。この「今」が本当は少しずれている。脳は感覚的な時間をコンマ何秒か前にずらして補正している。私たちの感じる「今」は過去の世界を感知していることになる。たしかに、原因があって、それに結果がついてくる構図よりも、予測を経験に基づいて行い、目的や結果をまず想定してそこから逆算して原因を作り出す方が、素早く動ける。行動し、行動の結果を認識し、それに基づいて判断(フィードバック)するのでは、いちいち時間がかかりすぎる。

それだけではない。我々の知覚は、見えている情報だけで決定されるのではなく、脳の内部のゆらぎ(ノイズ)からも作用を受ける。脳は、外から情報が入ってきていなくても、脳の内部だけで活発に活動する。脳の揺らぎ(ノイズ)+入力=出力という式になる。そして、脳は自分でノイズを作っては、そのノイズを整形し、またノイズを作るということを延々と繰り返す。すると、ますます、意志に至るまでの内的不確定要素は増える。

しかし、そうすると、自由意志の問題が発生する。自分の決断や意図や行動が、本当は0.3秒前の脳によって操られているに過ぎなくなってしまうのだ。これを前野隆司は心の地動説、受動意識仮説と名付けている。

まずは脳が活動の準備をする、それから0.3~0.5秒後に行動したいという意図・欲求が認識される、そこから運動領野へ刺激が伝達されて約0.2秒後に実際の行動が生じる。ここで、準備から意図・欲求まではオートマチックなプロセスで、人間の自由意志は介在しない。しかし、欲求から実際に行動するというプロセスには人間の意志が介在する。ここでの「自由意志」のことは、「自由否定」ということができる。つまり、自由とは、生じた意志をかき消すことなのだ。

「手を上げる」から「手が上がる」を引き算すると、そこに残されるのは、従来の意味での自由意志ではなく、手を挙げることをやめなかった意志、すなわち自由否定をしなかった、ということが残る。意識の段階を越えた後での行為の意志的コントロールは、〇〇することを止める、というネガティヴ・コントロールしかない。放っておくと、「やる」という選択肢しかない。脳の基本的作動原理は抑制であり、運動・行為の意志的制御には「イエス」がなくて「ノー」しかない。

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