セラピーの部屋 その三

「私は自己評価がとても低いです。人生の中でいつの間にか自信(Selbstbewusstsein)を失ってしまいました」

「自信を失ったとおっしゃいましたが、何かきっかけはありましたか? それとも、もともと小さい時から自信がなかったですか?」

「小さい頃は、健全に、子供らしい万能感に満ちていたと思います。大人になって変な男性にばかり好かれることによって次第に自信を失ったと思います。彼らはとにかくおかしくて、例えば無視していてもメールがたくさん来るとか、私が望んでいないのに身体的な接触をしてくるとか。この間ひとつひとつ思い出して数えてみたらそういう人がかなりたくさんいました。同時に、日本には、異性によって自意識に承認(Anerkennung)が与えられるというような風潮があるように思います。付き合っている人がいないと、その人の意志で恋人がいないのであっても、その人が何か変なんじゃないかと思われます。少なくとも、人生を楽しんで(genießen)いないとか、勉強や仕事ばかりしていて片手落ちだというようにネガティヴに受け取られることが多いです。私は、異性によって承認欲求を満たし、自信を持つ、というロジックになるべく負けないようにしてきました。私は男性関係でいくつか嫌なことがあったため、長く恋人がいない時期がありました。その間に、変な男性からたびたびアプローチを受けて、それによって私の自尊心は地に落ちたように思います。何でこんな人にばかり好かれるんだろうと落ち込みましたし、何より体に触られたりして人としての尊厳(Würde)がどんどん崩れていくような感覚がありました。これは、私が避けようと努力してきたロジックの変化形を自分で受け入れてしまったことになります。つまり、人としておかしいと思う男性によって自意識にネガティヴな形で承認が与えられる、そして自尊心がボロボロになるというわけです。実際、おかしな人に絡まれると、二、三か月鬱状態が続いていました。そして、私は未だに彼らに対して正当な怒りを持てていないような気がします。私の怒りの正当性(Berechtigung)を保証してくれるものがないからです。中には、露骨にホテルに誘って来た人もいましたが、そういうことがあっても、お前が悪いんだと言われたり、あなたに隙があるからだという社会の風潮があったりして、泣き寝入りしている事自体も周りから無視されてしまうように思います」

「日本では、自分の意志で積極的に一人でいることを選んで生きていくのは難しいことですか?」

「はい。そういう人を周りは変な目で見て、当人に欠陥があるとされてどこかで憐れまれたり蔑まれたりすることが多いように思います。何ででしょうね。こういう人生より、ああいう人生の方が上、みたいな順位付けが社会の中ですでになされていて、その順位の項目にさえ入らなかったものは変わっていると見なされる。多様な生き方が仮に認められているとしても、いや、私はそもそもそう思ってはいませんが、だとしてもそれぞれの人生の価値は等価ではない。優劣があるように思います」

「男性から、そして男性との関係から自立(unabhängig)したいという思いは、男性との嫌な経験が原因となっていますか?」

「はい。そうだと思います。嫌な経験でしたが、それを通して当時も、そして今も強烈に男性との関係から自立して生きたいと思っています」